食欲がない、元気がない――そんな変化の裏に、肝臓の慢性的な炎症が隠れていることがあります。犬の「慢性肝炎」は、初期にははっきりした症状が出ないため、発見が遅れやすい病気のひとつです。
この記事では、慢性肝炎の原因、気づきやすい症状、数値の見方、治療法、そして毎日の食事でできるサポートについて、飼い主さんに寄り添ってお伝えします。
犬の慢性肝炎は、さまざまな要因が絡み合って発症することがあり、体質的なものから感染症、薬の影響まで幅広い原因が考えられます。
まずは、特に注意しておきたい代表的な原因をご紹介します。
一部の犬種では、体質的に銅を排泄する力が弱く、肝臓に徐々に銅が溜まる「銅関連性肝障害」を起こしやすいことが知られています。銅が肝細胞に蓄積すると細胞障害が進み、慢性肝炎や肝硬変に発展することがあります。
たとえば、ベドリントンテリアやドーベルマン、ラブラドールレトリバーなどは注意が必要な犬種として知られています。肝臓に銅がたまり続けると、細胞が壊れて炎症を引き起こすことがあります。
・ベドリントン・テリア
銅を排泄するための遺伝子に異常があることが知られており、体内で銅が過剰に蓄積しやすい犬種です。発症年齢が比較的若く、無症状のうちに進行することもあります。
・ラブラドール・レトリバー
特にメスに多いとされ、銅代謝に関わる遺伝的要因が関係していると考えられています。無症状で数値が上がることもあり、定期検査が重要です。
・ドーベルマン
遺伝的に肝炎を起こしやすく、銅の蓄積が病気の進行に関与している可能性が高いと報告されています。進行性で重症化しやすいため注意が必要です。
・ダルメシアン
体質的に銅排泄が不十分になるケースがあり、慢性的に肝臓へ負担がかかる傾向がみられます。他の病気を併発しやすい点もリスクとなります。
・ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア
先天的に銅を代謝する能力が弱い個体が存在し、蓄積による肝障害につながることがあります。症状が出にくい分、発見が遅れる場合があります。
慢性肝炎は、感染症や長期的な薬の使用が引き金になることもあります。
たとえばウイルス・細菌・寄生虫のほか、ステロイドや抗てんかん薬などが原因になることも。中には、明確な原因が見つからない「特発性」のケースも少なくありません。
慢性肝炎は初期には症状がほとんど見られず、気づきにくい病気です。ただ、進行に伴い体調の変化が現れるようになり、血液検査の数値も重要な手がかりとなります。飼い主さんの観察と定期的な検査が、早期発見につながります。
「最近ごはんを残すことが増えた」「散歩に行きたがらない」といった小さな変化は、肝臓に負担がかかっているサインかもしれません。慢性肝炎は進行がゆるやかなため、初期は見逃されやすいのが特徴です。
日常の小さな違和感を軽視せず、体調変化に気づいたときは早めに受診することが大切です。
慢性肝炎が悪化すると、目の白い部分や皮膚が黄色くなる「黄疸」や、お腹が大きく張る「腹水」が現れることがあります。これらは肝機能が大幅に低下しているサインで、放置すると命に関わる危険もあります。
少しでも異常を感じた場合は早急に動物病院を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
血液検査ではALT(GPT)という酵素の値が特に重要視されます。肝臓の細胞が壊れると血液中に放出されるため、この数値が高いほど肝臓への負担が疑われます。
ただしALTだけでは病気の重さを判断できず、他の検査結果や症状とあわせて診断されます。定期的に数値をチェックし、推移を確認することが欠かせません。
ALT以外にも、ASTやALP、GGTといった肝酵素やビリルビンの数値を確認することが重要です。特にビリルビンが高い場合は、黄疸や胆道系の異常が疑われることもあります。
これらの数値は一度だけでなく継続的に追うことで病状の進行や治療効果を把握できます。数値の変化を見逃さず記録することが早期対応の助けとなります
「慢性肝炎って治るの?」という疑問を持つ飼い主さんは多いかもしれません。慢性肝炎は完治が難しい病気ですが、早期発見と適切な治療によって、症状を落ち着かせたり進行を遅らせることは十分に可能です。
慢性肝炎の治療では、肝臓の炎症を抑えるための薬や、肝細胞を保護する薬がよく使われます。
たとえば「ウルソ」や「SAMe(サミー)」といった肝保護剤、「シリマリン」などの抗酸化成分を含むサプリメントが処方されることもあります。原因によっては、ステロイドや抗生物質が使われる場合もあります。
一部の犬では、体内に銅がたまりやすい体質が原因で慢性肝炎を発症していることがあります。この場合は「銅キレート剤」と呼ばれる、銅を排出するための薬が必要になることがあります。
また、銅の摂取量を抑える食事療法も同時に行われることが多く、病型に応じた治療の選択がとても重要です。
慢性肝炎の犬にとって食事管理は治療の大切な柱です。療法食を中心に、手作りごはんやサプリメントなどを上手に取り入れることで肝臓への負担を減らし、生活の質を保つことにつながります。
過剰な脂肪やおやつを避けつつ、栄養バランスを意識した工夫が欠かせません。
手作りごはんを与える際は、脂っこい食材を控え、消化の良い高品質なたんぱく質を中心にすることが大切です。鶏むね肉や白身魚などは負担が少なくおすすめです。
また、ビタミンEやCといった抗酸化栄養素を加えることで肝細胞を守るサポートになります。ただし独自の判断は危険なので、獣医師に相談しながら安全なレシピを工夫しましょう。
肝臓に負担をかけない調理法や食材の選び方を知っておくと安心です。より詳しい工夫やレシピの考え方については、手作りドッグフードの記事も参考にしてください。
慢性肝炎の補助療法として、漢方やサプリメントを活用する飼い主さんも増えています。代表的なものに肝臓保護が期待されるシリマリン、抗酸化作用を持つSAMe、代謝を助けるタウリンなどがあります。
食べすぎや間違った使い方は逆効果になるため、使用を検討する際は必ず信頼できる情報源やかかりつけ医の指示を確認しましょう。
肝臓をサポートする成分やサプリメントについては、さらに詳しくまとめた記事もあります。代表的な成分やおすすめの商品を知りたい方は「犬の肝臓ケアにおすすめのサプリメント」もあわせてご覧ください。
療法食は病気の進行を抑える目的で栄養バランスが調整されており、たんぱく質や脂肪の量が細かく管理されています。一方、市販の総合栄養食は健康な犬向けに作られているため、脂肪分が高めで慢性肝炎の犬には不向きな場合もあります。
おやつやトッピングの多用も負担になるので、療法食を基本に据え、食事全体のバランスを意識して選ぶことが大切です。
慢性肝炎は進行すると肝不全へとつながり、犬の寿命に大きな影響を与える病気です。早期発見や治療を行うことで余命を延ばせるケースもありますが、進行度によって予後は大きく変わります。
慢性肝炎は長期的に肝細胞を破壊し続けるため、徐々に肝臓の機能が低下します。
軽度であれば治療や食事管理によって数年単位で安定を維持できる場合もありますが、重症化すると急速に体力を失い寿命を縮めてしまうことがあります。そのため定期的な検査と早期対応が寿命を延ばす鍵となります。
慢性肝炎が軽度から中等度で発見された場合、適切な治療と療法食の活用により数年にわたって良好な生活を維持できることがあります。症状の安定が続けば、他の慢性疾患と同様に高齢期まで生きられる可能性もあります。
ただし経過観察を怠ると進行が早まり、予想よりも余命が短くなることもあるため注意が必要です。
慢性肝炎が重度に進行し、黄疸や腹水などの症状が現れる段階になると予後は厳しくなります。
治療によって一時的に症状を和らげることは可能ですが、数ヶ月から1年ほどで状態が悪化するケースが多いとされています。愛犬の苦痛を和らげつつ、できるだけ穏やかな時間を過ごせるようサポートすることが大切です。
肝臓病と同じく腎臓も負担を受けやすく、併発リスクがあることが知られています。腎臓の健康管理については、犬の腎不全の記事もあわせてご覧ください。
慢性肝炎の治療には継続的な通院や検査が必要になります。費用感を知っておくと、計画的に治療を続けやすくなります。
慢性肝炎の診断や経過観察では、血液検査やエコー検査が欠かせません。血液検査は項目数によって変わりますが、一般的に1回あたり5,000〜15,000円ほどが目安です。
さらに、腹部エコーは1万円前後かかる場合が多く、定期的な検査が必要となるため、年間を通じて数万円規模の出費になるケースも少なくありません。
治療が始まると、薬や療法食といった継続費用が毎月発生します。薬代は種類や体重によって異なりますが、5,000〜15,000円程度が一般的です。
さらに療法食は1kgあたり2,000〜4,000円前後が多く、1ヶ月で数kg必要になる犬もいます。体格や症状によって差はありますが、薬とフードを合わせて毎月1万〜3万円ほどの出費を見込んでおくと安心です。
慢性肝炎の治療は、病院での診療だけでなく、日々の生活の中で飼い主さんができる工夫やサポートもとても大切です。体調を安定させるには、治療・ごはん・生活リズムなどを無理なく続けることがカギになります。
肝臓の状態は目に見えないことが多いため、定期的な血液検査やエコー検査で数値を追いながら経過を見ることが大切です。
また、食欲や元気、うんちの状態、行動の変化など、「いつもと違うな」と感じるサインを見逃さないことが、病気の悪化を防ぐ第一歩になります。
療法食や栄養管理はもちろん、愛犬がリラックスできる生活環境づくりも、肝臓の健康に影響します。
ストレスは体に負担をかけ、免疫力を下げる原因になるため、落ち着いた環境で過ごせるよう工夫しましょう。おやつの量や運動のバランスも、肝臓のサポートには欠かせないポイントです。
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犬の慢性肝炎はどれくらいの頻度で通院が必要ですか?
病状の進行度にもよりますが、一般的には1〜3か月ごとの定期検査と診察が推奨されます。薬の効果や血液検査の数値を確認しながら、治療や食事内容を調整する必要があるためです。状態が安定していても油断せず、継続的なフォローが大切です。
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慢性肝炎と診断された犬はワクチン接種を受けても大丈夫?
肝臓に炎症がある場合、ワクチン接種が体に負担をかけることがあります。かかりつけの獣医師と相談のうえ、接種のタイミングや必要性を慎重に判断することが重要です。症状が落ち着いていれば接種可能なケースもあります。
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肝臓用の療法食ではなく、市販のフードでも対応できますか?
市販フードでも肝臓への負担を抑えた設計のものがあります。ただし、療法食ほど成分が細かく調整されていないため、必ず成分表を確認し、かかりつけの獣医師と相談して選ぶのが安心です。脂質やたんぱく質の質に注意しましょう。
慢性肝炎と聞くと不安になるかもしれませんが、早く気づいて対応できれば、愛犬とゆったりとした時間を過ごすことは十分に可能です。
肝臓のケアは、特別なことではなく、毎日の中で少しずつできることの積み重ね。食事や環境、ちょっとした変化への気づきが、きっと愛犬の力になります。
焦らずに、でも見逃さずに。大切なのは、「守ってあげたい」というその気持ちを、日々の暮らしの中でカタチにしていくことです。ー