腎臓は、体内の老廃物を血液からろ過し、尿として排出する役割を果たしています。腎不全は、このろ過機能が何らかの原因でうまく働かなくなる状態を指します。
この疾患には、急性と慢性の二つのタイプがありますが、急性腎障害(腎臓病・腎不全)はより重症な症状を引き起こす傾向があります。早期の診断が難しいとされていますが、腎不全に特有の症状も存在します。
腎不全の主な症状は、尿の量に現れます。通常より尿量が増えたり、尿の匂いが変わったりする場合、慢性的な腎障害の兆候があるかもしれません。
一方、急性腎不全の場合、尿量が急激に減少し、時には全く排出されなくなることがあります。
急性腎不全は非常に重篤な状態であり、場合によっては命にかかわることもありますので、速やかに治療を受ける必要があります。
・食欲不振
・下痢、嘔吐
・尿量、飲水量の増加
・脱水
慢性腎不全は、腎臓の75%以上の機能がすでに低下し、さらに、ゆっくりと進行していく症状のことを言います。尿量の他には、食欲不振を起こしたりどんどん痩せていくといった症状が出ることもあります。
健康的な尿の色は透明な薄黄色です。食事や水の摂取量を受けやすいので、1回違和感を感じたら継続的にチェックしてあげるようにしてください。
急性腎不全を起こすと、何も治療を行わない場合余命は1週間から1ヶ月だとされています。
一方、慢性腎不全の場合は、進行度に応じて一般的にIRIS(International Renal Interest Society)の基準でステージ1から4に分類され、それにより余命にも少し差が生じます。
それぞれのステージと余命について以下に説明しますが、余命は個体差や治療の効果によって大きく異なるため、あくまで目安としてください。
特徴 | 腎機能の軽度な異常(例: 尿の濃縮能力の低下)がみられるが、血液検査でのクレアチニン値は正常範囲(犬では通常1.4 mg/dL未満)。症状はほとんどない。 |
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余命 | 適切な管理(食事療法や定期検査)で数年生存可能。進行を遅らせることが重要。 |
特徴 | クレアチニン値が軽度上昇(犬: 1.4~2.8 mg/dL)。軽い症状(飲水量増加、尿量増加)が現れる場合がある。 |
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余命 | 数ヶ月から数年。早期介入により進行を遅らせ、長期間安定する場合も多い。 |
特徴 | クレアチニン値が中程度上昇(犬: 2.9~5.0 mg/dL)。食欲不振、嘔吐、体重減少、脱水などの症状が顕著に。 |
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余命 | 数週間から1~2年。積極的な治療(輸液療法、薬物療法、特別食)でQOLを維持可能だが、進行が進むケースも。 |
特徴 | クレアチニン値が著しく上昇(犬: 5.0 mg/dL以上)。重度の症状(重篤な嘔吐、下痢、貧血、意識レベルの低下)が現れ、腎機能がほぼ失われる。 |
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余命 | 数日から数ヶ月。緩和ケアや集中的な治療が必要で、予後は厳しい。 |
具体例とデータ
・ステージ2の犬が適切な治療を受けた場合、1~3年生存するケースが多い(文献による)。
・ステージ3では、治療開始時の状態次第で数ヶ月~1年程度の報告あり。
・ステージ4では、積極的な緩和ケアでも数週間以内に亡くなる場合が一般的。
慢性腎不全か急性腎不全かによって原因は異なります。
慢性腎不全は、ゆっくりと進行する病気であり、数ヶ月から数年にわたって進行します。
その原因の多くは遺伝的要因にあり、例えばゴールデンレトリバーやシーズ、ミニチュアシュナウザーなどの犬種では遺伝的な腎障害がよく見られます。加齢や水腎症、糖尿病などの他の疾患も原因として挙げられます。
一般的に、犬が10歳を超えると腎不全のリスクが高まることが知られています。腎臓が損傷を受けると、回復することはありませんので、通院治療が必要です。
食事療法も効果的であり、腎臓に負担のかからない原料を使用したドッグフードに切り替えることが重要です。
急性腎不全の原因は、大きく分けて3つあります。命にかかわる病気なので、ほとんどの場合入院治療になります。
①循環器などに異常が起き、腎臓が血液不足に陥る
②感染症など(誤飲など)で腎臓自体の機能が低下する
③結石症などで尿がうまく排出できなくなる
犬の慢性腎不全は、腎機能が徐々に低下する進行性の病気で、早期発見と適切な治療が愛犬の生活の質(QOL)を保つ鍵となります。
治療は腎臓への負担を軽減し、症状を和らげることを目指します。以下では、ステージごとの治療法と自宅でのケアを解説します。
慢性腎不全の治療は、病気の進行を遅らせ、食欲不振や嘔吐などの症状を管理し、合併症を防ぐことです。
食事療法、薬物療法、輸液療法を組み合わせ、獣医師と連携して愛犬の状態に合わせたプランを立てます。早期介入により、進行を遅らせ、数年間安定した状態を保つことも可能です。
初期では、腎不全用の処方食が中心です。低タンパク、低リン、低ナトリウムのフード(例:ヒルズk/d、ロイヤルカナン腎臓サポート)で腎臓の負担を軽減し、オメガ3脂肪酸のサプリで炎症を抑えます。
新鮮な水を常時提供し、ウェットフードで水分摂取を促します。定期的な血液検査(クレアチニン、BUN、SDMA)や尿検査で進行を監視し、必要に応じて高血圧や蛋白尿を抑えるACE阻害薬(エナラプリルなど)やリン吸着剤を使用。
ストレスを減らし、適度な運動と体重管理も大切です。
中期では、食欲不振や嘔吐が現れます。処方食を厳守し、食欲低下時は温めたり風味を工夫。点滴(皮下輸液)を週1~数回行い、脱水と老廃物蓄積を防ぎます。
制吐剤(セレニアなど)、貧血用の鉄剤やエリスロポエチン、高血圧用のアムロジピンで症状を管理。尿路感染症があれば抗生物質で治療し、1~3ヶ月ごとの検査で状態を確認します。
末期では緩和ケアが優先され、QOLを保つことが目標です。頻回の輸液や制吐剤、食欲増進剤(ミルタザピンなど)で快適さを維持。
食欲が落ちた場合は、獣医師と相談し好きな食事を少量与える選択肢も。終末期ケアを獣医師と話し合い、愛犬が穏やかに過ごせる環境を整えます。
自宅では、自動給水器などで水を常時提供し、処方食を嫌がる場合は獣医師に相談。嘔吐や食欲の変化を記録し、急激な悪化はすぐ連絡。
飼い主のストレスも大きくなることがあるため、獣医師や周囲に相談しながらケアを進めましょう。犬の腎不全は完治が難しいですが、適切な治療と愛情で快適な時間を延ばせます。獣医師と協力し、愛犬に寄り添ってください。
急性腎不全(例:毒素摂取、感染症、脱水による)は、原因を迅速に取り除き、適切な治療(点滴、薬物療法)を施せば、腎機能が部分的に回復する可能性があります。特に若い犬や早期発見の場合、予後が良いことも。
しかし、慢性腎不全は腎臓の組織が不可逆的に損傷するため、完治は期待できず、治療は進行を遅らせQOLを保つことに重点を置きます。それでも、適切な管理で数ヶ月から数年、快適に過ごせる場合もあります。
慢性腎不全の場合、食事療法が重要です。特に注意が必要なのは、リンの摂取量です。
リンは体の細胞を構築するのに重要ですが、腎不全の犬にとっては悪影響を及ぼす可能性があります。
腎不全が進行すると、たんぱく質の摂取量も調整する必要がありますが、犬にとってたんぱく質は必須栄養素ですので、完全に制限するわけにはいきません。
具体的な数値などは、かかりつけの獣医に相談し、専用の病院食や手作りフードで摂取量を管理する必要があります。
腎臓の状態を医師に確認し、タンパク質とリンを制限した食事療法が必要になります。カリウムは腎不全の症状によって与える量が大きく変わるので注意してください。また、過度なナトリウム摂取も避けた方が良いでしょう。
腎不全は、たんぱく質を制限している分カロリーが不足しがちになりますので、比較的カロリーが高いフードを与えて体力を維持できるようにしてください。
犬の腎臓の健康維持を目的としたサプリメントもあるります。ドッグフードの切り替えを避けたいときなどにおすすめです。
鰹節は高タンパクで栄養価が高く、犬の筋肉や被毛の健康に役立つ成分が含まれています。また、香りが強いため、食欲が落ちている犬でも餌を食べるようになります。
ただし、腎不全の症状がある犬に鰹節を与えるのはよくないとされています。以下に、その理由を解説します。
市販の鰹節には塩分が含まれているものが多く、腎不全の犬にとって塩分は特に注意すべき成分です。
腎臓の働きが低下している場合、塩分を十分に排出できなくなり、血圧が上昇し、腎臓に負担をかける恐れがあります。
鰹節はタンパク質が豊富ですが、腎不全の犬には過剰なタンパク質を控える必要があります。
腎臓はタンパク質の代謝によって老廃物を処理する役割を担っていますが、腎機能が低下していると、この処理が十分にうまくいかず、体内に老廃物が放置されることで症状を悪化させる可能性があります。
鰹節にはリンやカリウムミネラルといったものが含まれています。
腎不全の犬では、これらのミネラルのバランスを正しく守ることが重要ですが、過剰に摂取すると血液中のミネラル濃度が上昇し、電解質のバランスが崩れて健康に悪影響を及ぼすことがあります。
市販品の一部には、保存料や調味料などの添加物が含まれている場合があります。これらは腎不全の犬にとって注目すべき成分です。
鰹節の他にも、できる限り避けた方が良い食べ物がいくつかあります。
魚介類、魚加工品、チーズ、牛乳などの乳製品、食パンなど。
腎不全の犬にとっての食事は治療を目的とする場合が多く、低塩分・低リン・適正タンパクの食事が推奨されます。