前立腺とは、雄犬の膀胱の付け根にある副生殖器で、精液の一部となる前立腺液を分泌する働きがあります。
今回は、この前立腺肥大が大きくなってしまう病気の原因や症状、治療法などについて詳しく見ていきます。
犬の前立腺肥大とは、加齢により前立腺の細胞が増え大きくなってしまうことをいいます。前立腺は、精液を作る働きがあるためオスにのみ存在します。去勢を行っていない場合に多く発症し、6歳で60%、9歳までに95%にもなるといわれています。
前立腺肥大は、加齢が進んだオスに高確率で発症する病気なので、特にどの犬種がなりやすいというものはありませんが、ドーベルマンやスコティッシュ・テリア、バーニーズなどは、遺伝的に発症しやすいという説もあります。
前立腺肥大は、目立った症状がなく早期発見が難しい病気の一つです。時間をかけて大きくなり他の臓器を傷つけて初めて発見されるということも多くあります。そのため、他の器官の機能低下による症状から判断することになります。
前立腺が肥大すると、尿道が圧迫されて尿の排出が難しくなり、膀胱内に尿が溜まりやすくなります。この状態が続くと膀胱炎を引き起こすことがあり、以下のような症状が見られます。
頻尿:犬が頻繁にトイレに行きたがり、少量の尿しか出ないことが多いです。
血尿:尿に血が混ざることがあり、これは膀胱や尿道に炎症が起きているサインです。
排尿時の痛み:犬が排尿時に不快感を示し、鳴いたり、排尿をためらうことがあります。
尿漏れ:膀胱の機能が弱くなることで、少量の尿が漏れてしまうことがあります。
前立腺が大きくなると、直腸や腸を圧迫することがあり、排便に影響を及ぼします。これにより、以下の症状が現れることがあります。
便秘:前立腺の肥大によって腸が圧迫され、便が出にくくなることがあります。犬が排便時に苦しんだり、排便の頻度が減ることがあります。
血便:直腸が圧迫されることで炎症が起こり、便に血が混じることがあります。
排便のしづらさ:便が硬く、排便に時間がかかったり、犬が痛がる様子を見せることがあります。腸閉塞による嘔吐の症状が出ることもあります。
犬の前立腺肥大(前立腺肥大症)の原因は、正確には特定されていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。特に高齢のオス犬に多く見られるこの疾患は、加齢やホルモンの変化などが影響している可能性が高いといわれています。
加齢は前立腺肥大の最も一般的な原因です。オス犬では年齢とともに前立腺が大きくなる傾向があります。特に8歳以上のオス犬で前立腺肥大が増加することが知られています。
前立腺はホルモンの影響を強く受ける臓器です。特に、テストステロンという男性ホルモンが前立腺の成長に影響を与えます。
犬が高齢になると、テストステロンの代謝産物である**ジヒドロテストステロン(DHT)**のレベルが増加し、これが前立腺を刺激して肥大を引き起こすと考えられています。
去勢していないオス犬では、ホルモンレベルが維持されるため、前立腺肥大のリスクが高くなります。去勢された犬では、テストステロンの分泌が減少するため、前立腺の肥大は一般的に発生しません。
前立腺が感染や炎症によって腫れると、慢性的な刺激により前立腺肥大を引き起こす可能性があります。細菌感染やその他の要因が前立腺炎を引き起こし、それが肥大に繋がることがあります。
特定の犬種や家系によっては、前立腺肥大のリスクが高いとされています。遺伝的な要素が関係している可能性があり、一部の犬種では前立腺肥大がより一般的に見られます。
食事や栄養のバランスの乱れ、または免疫機能が低下することで、前立腺の健康が損なわれ、肥大が進行するリスクがあるという見解もあります。
ただし、これは明確な因果関係が示されているわけではなく、他の要因と複合的に作用する可能性が考えられます。
前立腺肥大は、他の病気や異常が関係している場合もあります。例えば、前立腺の腫瘍や嚢胞(のう胞)が前立腺の肥大を助長することがあります。
また、前立腺肥大そのものが尿道や膀胱の問題を引き起こし、さらなる病気のリスクを高めることもあります。
犬の前立腺肥大は多くの場合、加齢やホルモンの変化が主な要因とされていますが、去勢していないことや前立腺の炎症、遺伝的要因などが複雑に関係しているといえます。
犬の前立腺肥大は進行すると排尿や排便に影響を与えるため、定期的な健康チェックが重要です。特に高齢のオス犬は、前立腺の健康状態をモニタリングすることが推奨されます。
前立腺肥大を発症した場合、去勢手術が効果的です。精巣が除去されることで男性ホルモンを減らし前立腺を縮小します。術後は、数週間で少しずつ小さくなり3ヶ月でほぼ元通りになります。
発見が早くまだ大きくなってないない場合には、ホルモン剤の投与で前立腺の成長を遅らせることが可能です。逆に、発見が遅く肥大化が進んでいる場合には、他の臓器への影響も考え外科手術を行うことになります。
前立腺肥大は、ほとんどの場合去勢手術で対応できると言われています。
前立腺肥大の多くは去勢手術で完治しますが、腸への圧迫で軽い便秘を起こしているだけなら食事療法(ドッグフードの切り換え)で改善することがあります。
切り替えるドッグフードは、便秘に効果的な原材料が豊富なもの。オリゴ糖や食物繊維には整腸作用があり便秘を改善させます。消化が良いグレインフリーなどもおすすめです。