犬の前立腺肥大(BPH)は、高齢の未去勢オスに多く見られる良性の変化です。初期症状はささいでも、放置すると排尿・排便障害や合併症のリスクが高まります。
この記事では、症状の見分け方から治療法、費用の目安、再発防止のポイントまで、飼い主さんが知っておきたい情報をまとめました。
犬の前立腺肥大(BPH)は、特に高齢の未去勢オス犬でよく見られる良性の変化です。病気というより加齢に伴う生理的な肥大が多く、正しい知識を持つことが早期発見と適切な対応につながります。
前立腺肥大は5〜6歳を過ぎた未去勢オス犬で増え、8歳以上では約半数が何らかの変化を示すといわれます。加齢によるホルモンの影響が主因で、若い犬ではまれです。
去勢をしている場合はリスクが大きく減少しますが、定期健診でのチェックは重要で、早期発見が健康維持につながります。
前立腺肥大は良性の変化で、急性の前立腺炎や悪性腫瘍とは異なります。前立腺炎は発熱や痛みを伴い、腫瘍は進行が早く重度の症状を示すことがあります。
一方、BPHは軽度または無症状のことも多く、触診や超音波検査での鑑別が必要です。確実な診断のためには獣医師の判断が欠かせません。
前立腺肥大は、初期段階では目立った変化が少ないこともあります。小さなサインを見逃さず、適切なタイミングで受診することが、合併症を防ぎ、愛犬の快適な生活を守るカギです。
前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、血尿や頻尿、残尿感、尿が出始めるまで時間がかかる、途中で止まるなどの変化が出ます。排尿時の痛みや背中を丸める仕草が見られることも。
血尿は膀胱炎など他疾患とも重なるため、軽症でも早めに受診を。水をよく飲む、回数増加やにおい変化もサインです。
肥大した前立腺が直腸を押すと、便秘や強いいきみ、細い便、排便に時間がかかるなどの変化が起こります。背中を丸めて踏ん張る、途中で歩き回る、痛がる様子もサイン。
数日続く、血が混じる、食欲低下を伴う場合は進行の可能性があるため、早めに受診しましょう。高齢犬や去勢していない犬では特に注意が必要です。
骨盤周囲の圧迫や痛みにより、歩幅が狭くなる、腰を落として歩く、立ち上がりに時間がかかるなどの変化が見られます。散歩で頻繁に座り込む、後肢を気にする、抱き上げると嫌がるといったサインも要注意。
長引くときは神経や関節の疾患との鑑別が必要なため、受診を。動画で記録して獣医師に見せると診断の助けになります。
前立腺肥大かどうかを確定するには、触診だけでなく複数の検査を組み合わせた判断が必要です。検査内容を理解しておくと、受診時の不安が和らぎます。
獣医師が肛門から指を挿入して前立腺の大きさや硬さを確認する直腸検査は、最も基本的で有効な方法です。左右の対称性、表面の滑らかさ、硬結の有無を触診し、腫瘍や炎症との区別をつけます。
短時間で済み、負担も少ないため、多くの動物病院で行われる初期診断の第一歩です。
超音波検査では前立腺の形状や内部のエコー像を観察し、嚢胞・腫瘍・炎症などを視覚的に確認します。X線検査では骨盤や膀胱との位置関係、圧迫の程度を把握でき、排便・排尿障害の原因特定に役立ちます。
このふたつを組み合わせることで、肥大の程度と他疾患の鑑別がより正確になります。
血液検査では炎症やホルモンバランスの異常を、尿検査では感染や血尿の有無をチェックします。これにより、前立腺炎や尿路結石、膀胱炎など類似疾患を除外することが可能です。
特に血尿や頻尿がある場合、尿沈渣や培養検査を追加することも。複数のデータを組み合わせ、総合的に判断することが重要です。
前立腺肥大の治療は、犬の年齢や症状の重さ、再発リスクによって選択肢が異なります。代表的な方法と費用の目安を把握しておくと、安心して判断できます。
去勢手術は前立腺肥大の最も一般的かつ効果的な治療法です。男性ホルモンを抑えることで前立腺の縮小が期待でき、数週間〜数か月で症状が改善します。
費用は小型犬で3〜5万円、中〜大型犬で5〜8万円程度が相場です。術後は傷口の管理と安静が必要ですが、再発防止にも大きな効果があります。
去勢が難しい場合や一時的な対応として、ホルモン製剤を用いた内科療法が選ばれることがあります。注射または経口薬で男性ホルモンの作用を抑え、前立腺のサイズを縮小させます。
費用は1回あたり数千円〜1万円程度で、定期的な投与が必要です。ただし副作用や再肥大のリスクがあるため、獣医師と慎重に相談しましょう。
膿瘍形成や重度の尿閉など、内科治療や去勢だけでは改善が難しいケースでは外科的切除やドレナージなどが行われます。
手術費用は症例により異なりますが10万円以上かかることもあり、入院や術後管理が必要です。リスクも伴うため、専門施設での評価と十分な説明を受けた上で判断することが大切です。
前立腺肥大の治療後や進行予防には、日常の食事と生活習慣の工夫が欠かせません。便秘や体重増加を防ぎ、排尿・排便をスムーズにする環境づくりが大切です。
食物繊維が豊富な野菜や消化のよい炭水化物をバランス良く取り入れると、便通を整えやすくなります。急な食事変更は腸に負担をかけるため、少しずつ切り替えることがポイントです。
適度な水分と良質なたんぱく質を組み合わせ、腸内環境を保ちながら前立腺への圧迫を減らすことが期待できます。
肥満は前立腺や骨盤周囲に余計な負担をかけ、排尿・排便のしづらさを悪化させる可能性があります。カロリーコントロールされたドッグフードを選び、散歩や軽い遊びで無理のない運動を継続しましょう。
去勢後は代謝が落ちやすいため、体重の変化を定期的にチェックして早めに調整することが大切です。
十分な水分補給は尿を希釈し、排尿時の刺激や感染リスクを減らす効果があります。新鮮な水を複数の場所に置き、食事に少量のぬるま湯を加えるのも有効です。
トイレは清潔で落ち着ける場所に設置し、回数を我慢させない環境を整えましょう。これらの工夫が膀胱炎や尿路トラブルの予防にもつながります。
前立腺肥大は、治療後も油断せず、定期的なチェックと日常観察を続けることが大切です。小さな変化を早期に察知することで、再発や合併症を防げます。
去勢手術やホルモン療法後は、数週間〜数か月おきに経過を確認することが推奨されます。術後数日は排尿・排便、食欲の変化をよく観察し、異常があればすぐに受診を。
高齢犬では半年〜1年ごとの定期健診で前立腺サイズやホルモン状態をチェックし、再発リスクを最小限に抑えることが重要です。
排尿・排便の回数や姿勢、尿の色、食欲や体重など、日々の記録を簡単に残す習慣が役立ちます。特に血尿や排尿困難、便秘、腰の違和感などのサインを見逃さず、少しでも変化を感じたら早めに相談を。
動画やメモで症状を共有すれば、診断がスムーズになり、再発時も早期対応が可能になります。
前立腺肥大と似た症状を示す病気は少なくありません。誤診や治療の遅れを防ぐため、混同しやすい疾患との違いを理解しておきましょう。
膀胱炎も血尿・頻尿を引き起こし、前立腺肥大と見分けが難しいことがあります。膀胱炎は細菌感染による炎症が原因で、比較的若い犬にも発症する点が特徴です。
血尿や頻尿が軽度でも油断せず、症状が続く場合は早めに受診しましょう。詳しくは 犬の膀胱炎の症状と対処法 を参考にして、違いを確認しておくと安心です。
尿路結石では排尿困難、血尿、排尿時の痛みが見られ、結石の位置によっては命に関わる尿閉を引き起こすこともあります。前立腺肥大との症状の重なりが多く、区別が難しい場合があります。
水分補給を意識し、排尿異常を感じたらすぐに動物病院で検査を受け、早期に治療を開始することが重要です。
尿路結石の原因や治療法、再発を防ぐ食事管理については、詳しく解説したこちらの記事も参考にしてください。
👉 犬の尿路結石の症状と原因|食事療法と再発予防
前立腺炎や神経疾患、腫瘍なども排尿障害の原因となります。これらは進行が速く、痛みや発熱、元気消失などを伴うことも多いです。
見分けがつかないまま放置すると状態が悪化する恐れがあるため、異変を感じたら早めに診察を受けましょう。複数の検査を組み合わせて正確な診断を得ることが、適切な治療への近道です。
飼い主さんから寄せられる疑問の中でも特に多いものを、簡潔かつ分かりやすくまとめました。
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去勢しないと前立腺肥大は悪化しますか?
去勢をしないままだと、前立腺肥大が進行して排尿・排便障害を引き起こす可能性が高くなります。さらに前立腺炎や腫瘍など他の疾患リスクも増えるため、獣医師と相談して最適な判断をしましょう。
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治療後、症状が改善するまでどのくらいかかりますか?
去勢手術後は、前立腺の縮小や症状の改善が数週間から数か月かかることが一般的です。ホルモン療法でも一時的に効果が出るまで時間が必要で、経過観察と定期健診が大切です。
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前立腺肥大が癌になることはありますか?
前立腺肥大自体は良性ですが、長期的には腫瘍が見つかるケースも報告されています。頻繁な検診と症状の変化のチェックで、早期発見と適切な対応を心がけましょう。
前立腺肥大は、高齢の未去勢オス犬に多い良性の変化ですが、排尿・排便の障害や合併症につながることがあります。小さなサインを早期に察知し、診断・治療の流れを理解しておくことが、愛犬の負担を減らす鍵です。
去勢手術は最も効果的な予防・治療法で、ホルモン療法や外科的対応など状況に応じた選択肢もあります。加えて、食事や体重管理、水分補給などの日常ケアが再発防止に役立ちます。
定期健診と生活チェックを続け、異変を感じたら早めに獣医師へ相談しましょう。飼い主の細やかな見守りが、愛犬の健康寿命を大きく支えます。