犬の僧帽弁閉鎖不全症|症状・寿命・手術費用・治療法まで徹底解説

愛犬ごはんノート編集部
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僧帽弁閉鎖不全症の原因や食事療法について解説する画像

咳や呼吸の変化、疲れやすさなど――愛犬のこんな様子に「もしかして心臓病かも?」と不安を感じる飼い主さんも多いのではないでしょうか。


犬の心臓病のなかでも特に多いのが「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)」で、シニア犬を中心に多く見られます。


このページでは、僧帽弁閉鎖不全症の症状や進行の段階、寿命への影響、治療や日常ケアのポイントまで、わかりやすくご紹介します。



僧帽弁閉鎖不全症とはどんな病気?

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)は、犬の心臓病の中で最も多く見られる疾患です。特に中高齢の小型犬で多く発症し、進行性の病気であるため、早期発見と日々のケアがとても重要です。


僧帽弁の役割と病気の仕組み


僧帽弁は心臓の左側にあり、血液が逆流しないようにする大切な弁です。この弁が変形や劣化によってきちんと閉じなくなると、送り出すはずの血液が逆流してしまいます。


その結果、心臓が必要以上に働かなければならなくなり、やがて全身への血液循環にも支障が出るようになります。


どんな犬がかかりやすい?


僧帽弁閉鎖不全症は、特に6歳以上の小型犬で多く見られる心臓病です。マルチーズ、キャバリア、チワワ、ポメラニアンなどがかかりやすい犬種として知られています。


遺伝的な要素や加齢による変性が原因とされ、初期には症状が現れにくいため、健康そうに見えても定期的な検診がとても大切です。

初期症状と進行による変化

僧帽弁閉鎖不全症は、初期のうちはほとんど症状が出ないこともあります。ですが、じわじわと進行していくため、ちょっとした変化にも気づいてあげることが大切です。


初期に見られるサインとは?


「なんだか疲れやすい」「散歩の途中で立ち止まることが増えた」など、ささいな変化が初期症状のサインかもしれません。夜間や朝方の咳、水を飲む回数が増えた、軽く震えるといった様子が見られることも。


こうした変化を見逃さず、気になったら早めに病院で相談してみましょう。


症状の進行とステージごとの変化


進行すると咳が激しくなったり、呼吸が苦しそうになったりすることがあります。さらに進んだステージでは、お腹に水がたまったり、ふらつきや失神を起こす子もいます。


どの段階でも、できるだけ負担を減らしてあげることで、少しでも穏やかに過ごす時間を延ばすことができます。


ステージA

特徴:心臓病のリスクが高い犬(例:キャバリアなど遺伝的に発症しやすい犬種)
症状:臨床症状なし、心雑音なし


ステージB1

特徴:心雑音はあるが、心臓の拡大はなし
症状:症状はまだ出ない(無症候性)


ステージB2

特徴:心雑音+心臓の拡大が確認される
症状:まだ咳や呼吸困難は出ないが、進行リスクが高まる


ステージC

特徴:僧帽弁閉鎖不全により心不全を発症
症状
・咳が増える
・呼吸が早い、苦しそう
・運動を嫌がる、疲れやすい
・食欲低下や体重減少


ステージD

特徴:治療に反応しづらい末期の心不全
症状
・重度の呼吸困難、安静時でも苦しい
・失神、チアノーゼ(舌や粘膜が紫色に)
・腹水・胸水が溜まる
・治療薬を増やしても改善が難しい状態


参考文献: Keene BW, et al. "ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs." Journal of Veterinary Internal Medicine. 2019;33(3):1127-1140. PubMed / PMC

診断と治療の流れ

愛犬に咳やだるそうな様子が見られると、「心臓の病気かも…」と不安になります。診断から治療開始までの一連の流れを知っておくことで、受診時に落ち着いて対応しやすくなります。


どんな検査を行うの?


まずは獣医師が聴診器で心音を確認し、雑音があるかをチェックします。その後、必要に応じてレントゲン検査や心電図、心エコーなどを組み合わせ、心臓の大きさや血流の状態を詳しく調べていきます。


これらの検査は、病気の進行度を把握し、最適な治療方法を決めるために欠かせません。


治療にはどんな方法があるの?


僧帽弁閉鎖不全症の治療は主に内科的治療が中心です。血管を広げて心臓の負担を減らす薬や、心臓の収縮をサポートする薬などが処方されます。


病気のステージに応じて薬の種類や投与量が調整され、症状の進行を遅らせることを目指します。さらに、食事や生活習慣の見直しとあわせて治療を続けることで、愛犬がより快適に暮らせるようにサポートしていきます。


心臓病には僧帽弁閉鎖不全症のほかに、心筋が弱まり血液を十分に送れなくなる拡張型心筋症(DCM)も知られています。特定の大型犬に多く見られ、進行すると命に関わることもあります。
拡張型心筋症(DCM)について詳しく見る

僧帽弁閉鎖不全症の手術費用と注意点

内科的治療でコントロールが難しい場合、外科手術(僧帽弁形成術など)が選択肢となります。


手術費用は病院や地域によって差がありますが、一般的には40万~100万円以上と高額になることが多いです。入院費や術後の管理費用を含めるとさらにかかるケースもあります。


また、手術には全身麻酔が必要なため、高齢犬や合併症がある犬ではリスクが高くなる点に注意が必要です。実際に受けるかどうかは、獣医師と十分に相談し、愛犬の体調や生活の質を総合的に考えて判断していくことが大切です。

寿命と余命はどのくらい?

僧帽弁閉鎖不全症と聞いて、いちばん心配なのは「うちの子はどれくらい生きられるの?」ということではないでしょうか。ここでは寿命の目安と、長生きにつながる工夫を紹介します。


病気があっても長生きできる?


僧帽弁閉鎖不全症と診断されても、すぐに命に関わるわけではありません。早めに治療を始め、食事や生活習慣に気を配ることで、10歳以上まで元気に過ごす子もたくさんいます。


愛犬の状態に合ったサポートを続けることで、穏やかな毎日を長く一緒に過ごすことができます。


進行ステージごとの余命の目安


病気の進行ステージによって、心臓への負担や体への影響が異なります。初期の段階なら余命は数年以上といわれており、内服薬だけでコントロールできるケースも多いです。


中等度〜重度になると咳や呼吸困難が見られるようになり、数ヶ月から1年単位での管理が重要になります。


ステージA

寿命の影響:心臓病が直接寿命に影響する段階ではない


ステージB1

寿命の目安:数年以上この状態を保つ犬も多く、寿命に直結しないこともある


ステージB2

寿命の目安:無治療だと1〜3年で心不全(ステージC)に進行することが多い
補足:早期から薬を始めると進行を遅らせられる研究結果あり


ステージC

寿命の目安:適切に治療すれば1〜2年生きるケースが多い
補足:小型犬では治療開始後でも数年以上延命できる子もいる


ステージD

寿命の目安:数ヶ月〜1年程度とされることが多い
補足:症状のコントロール次第で変動は大きい


寿命はあくまで「平均的な目安」であり、個体差が非常に大きいです。


治療や生活管理で延ばせる寿命の可能性


僧帽弁閉鎖不全症は進行性の心臓病ですが、適切な治療と生活管理によって寿命を大きく延ばせることがあります。たとえば、早期の段階から薬物療法を始めた小型犬では、5年以上元気に過ごせるケースも報告されています


食事の工夫や体重管理、定期的な健康チェックを続けることで、心臓への負担を減らし、余命に良い影響を与えることが期待できます。一方で大型犬は進行が速いため、こまめな通院とケアの徹底が特に重要です。

僧帽弁閉鎖不全症の食事とサプリの役割

食事や栄養は、僧帽弁閉鎖不全症の進行をゆるやかにし、症状を和らげるために大切なサポートとなります。フード選びやサプリメントの取り入れ方を知っておくことで、愛犬の生活の質を高めやすくなります。


心臓病に配慮したフード選びで迷っている方は、➡ 心臓病に配慮したおすすめドッグフードも参考にしてください。


減塩・低脂肪が基本の食事


心臓に余計な負担をかけないためには、塩分や脂肪を控えたフードを選ぶことが基本です。ナトリウムを摂りすぎると血圧が上昇し、心臓への負荷が強まります。


加工肉や人間用のおかずなど塩分の多い食材は控え、減塩タイプの療法食や、野菜やささみを取り入れたバランスの良い食事を心がけましょう


心臓病ケア用フードでは、タンパク源や脂肪量のバランスも重要です。特に近年注目されているえんどう豆の使用については、安全性や心臓への影響を心配する声もあります。
👉 犬にえんどう豆は大丈夫?危険性・アレルギー・心臓病との関係を解説


避けたい食材とその理由


ハムやソーセージなどの加工肉、スープや惣菜といった人間用の味付け食品は塩分が多く、心臓病の犬には負担となります。また、揚げ物やクリームを使った料理は脂肪分が高く、体重増加や心臓への圧迫につながることがあります。


愛犬の健康を守るためには、こうした食品は避け、できるだけ薄味で低脂肪のメニューを心がけることが大切です。


サプリメントでできるサポート


フードだけでは補えない栄養素をサプリメントでサポートするのも有効です。タウリンやL-カルニチンは心筋の働きを助け、EPA・DHAなどのオメガ3脂肪酸は血流や炎症のコントロールに役立つとされています


さらにコエンザイムQ10はエネルギー代謝を支え、心臓の機能維持に有益と考えられています。ただし、サプリは薬との相互作用や体調への影響があるため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談してから取り入れることが大切です。

僧帽弁閉鎖不全症の犬が気を付けたい生活習慣

僧帽弁閉鎖不全症のある犬は、運動や過ごし方にも少し注意が必要です。ここでは、散歩のコツや日常生活で気をつけたいポイントをご紹介します。


散歩は短め・無理のないペースで


心臓に負担をかけないためにも、散歩は短時間で無理のないペースを意識しましょう


歩く速度が落ちたり、立ち止まることが増えてきたら、すぐに休ませてください。排泄だけの軽い外出にとどめる日があっても大丈夫です。愛犬の調子を見ながら、今日はどこまでにするかを毎日柔軟に決めてあげましょう。


日常生活で注意したいこと


急な興奮やストレスは心臓に負担をかけるため、生活はなるべく穏やかに保つのがポイントです。気温の変化にも敏感なので、暑すぎる日や寒い日は室内の環境調整を心がけましょう


寝る場所やフードボウルの高さなど、小さなところを見直すだけでも愛犬の体はぐっと楽になりますよ。

僧帽弁閉鎖不全症で気になることQ&A

初めてこの病気を聞いた方や、診断されたばかりの方は、不安や疑問がたくさんあると思います。ここでは、飼い主さんからよく寄せられる質問にお答えします。



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手術は絶対に受けたほうがいいですか?

必ずしも手術が必要というわけではありません。内科的な治療だけで長く元気に過ごせるケースも多く、愛犬の年齢や状態によって判断されます。



(タップで回答)
毎月どれくらいの薬代がかかりますか?

処方内容によりますが、一般的には月に3,000~10,000円程度かかることが多いです。長期的にかかるため、費用計画も大切です。



(タップで回答)
心臓病の犬でも散歩はしていいですか?

はい。ただし無理は禁物です。症状の進行度によっては短時間の散歩や排泄だけの外出に切り替えるなど、主治医の指示を守るようにしましょう。



(タップで回答)
サプリメントは飲ませたほうがいいですか?

タウリンやEPAなど心臓をサポートする栄養素を補う目的で使われることがありますが、薬との相性もあるため、必ず獣医師に相談してください。



(タップで回答)
手作りごはんでも大丈夫?

手作りごはんは減塩や食材選びを工夫できるメリットがありますが、栄養バランスの管理が難しく、心臓病に必要な栄養素が不足するリスクもあります。


療法食や総合栄養食を基本にし、どうしても手作りを取り入れたい場合は必ず獣医師に相談しながら進めることをおすすめします。

愛犬の心臓を守るために大切なこと

僧帽弁閉鎖不全症は、早期発見と適切なケアでコントロールできる病気です。「手術しない」選択も含めて、愛犬の状態や暮らし方に合った治療を選ぶことが何よりも大切です。


薬や食事、サプリ、運動量の調整など、日々の積み重ねが心臓への負担を軽くし、穏やかな毎日につながります


不安なときはひとりで抱え込まず、信頼できる獣医師と二人三脚で取り組みましょう。どんなときも、愛犬にとって一番の味方でいられるのは飼い主さんです。